以前SNSにおいて「産後うつ」という病名は存在しないのだから、産後うつは甘えだという話が話題になっていました。
ここでは「産後うつ」は存在しないのか。
なぜこのような議論がSNS上であがることとなったのかを記載したいと思います。
- 産後うつについて知りたい方
- 診断名のつけ方が知りたい方
お急ぎの方はポイントだけどうぞ
「産後うつ」という診断名は存在しない。
なぜならば「うつ病」が診断名となるから。
産後の女性はうつ病の有病率が高く、周産期の方がうつ病に悩まされている事実に変わりはない。
病名はどのようにつけられる?
私たちが使っている「うつ病」や「2型糖尿病」といった病名はWHOが作成しているICD-10という診断基準によってつけられています。
(2018年にICD-11という新しいバージョンのものがWHOより発表となっていますが、国内ではまだ使用されていないため、ICD-10 の内容に則って記載していきます)
SNSにおいて「産後うつ」という病名は存在しないと言われ始めたのも、このICD-10に「産後うつ」というワードで記載がないからというのが理由でした。
本当に「産後うつ」は存在しないのか
産後うつとは
産後うつ病はおよそ10%の罹患率があり、気分の落ち込みや楽しみの喪失、自責感や自己評価の低下などを訴え、産後3か月以内に発症することが多いです。マタニティブルーズが通常は1-2週間でおさまるのに対し、症状は2週間以上持続します。マタニティブルーズがあった女性は産後うつ病発症のリスクが高まると言われています。発症の背景要因として、うつ病の既往の他、パートナーからのサポート不足など育児環境要因による影響も大きいとされています。妊娠中から不安やうつの問題がおこっている場合も少なくないため、妊娠中からケアを行う必要があります
と記載されています。(日本産婦人科医会HPより引用)
詳しい説明は割愛しますが、ここに記載されている
気分の落ち込み
楽しみの喪失
等はうつ病を診断する上で必須の症状となります。
「産後うつ」の病名がICDに記載がない理由
上記のようにうつ症状が3ヶ月以内に発症することが多いため、産後うつという言い方をしますが、診断基準からは「うつ病」の診断がつきます。
うつ病とはその状態を表すものであり、「産後」とはその状態に至った経緯にすぎません。
仕事でうつになったからと言って「仕事うつ」と診断名がつかないのと同じです。
ICD-10で「産後うつ」という病名の記載がないのは当たり前ではないでしょうか?
産後に発症する「うつ病」だからです。
期間ごとの有病率
産後うつ病の期間ごとの有病率は以下のとおりであった。
●産後1ヵ月以内:15.1%
●1~3ヵ月:11.6%
●3~6ヵ月:11.5%
●6~12ヵ月:11.5%
・初産婦は、経産婦(2回以上の出産を経験した女性)と比較し、産後うつ病の有病率が有意に上昇した(調整相対リスク:1.76)。
(周産期うつ病の日本における有病率~メタ解析 より引用)
ここにも記載されている通りどの期間においても一般的なうつ病有病率よりも高くなっており、特に初産の方で有意に高かったとされています。
また妊娠中にうつ症状を経験していた女性の約4割が、産後もうつ症状を認めるといった報告(Underwood et al, 2016)もされており、妊娠中からの継続的なケアが重要とされています。
まとめ
産後にうつ症状を呈し、うつ病の診断基準を充たした場合診断名は「うつ病」となる。周産期のうつ病有病率が高いことには変わりないため「産後うつ」に悩まされている方がいることは間違いない事実です。